『発酵文化人類学』世界の中心で発酵愛を叫ぶ一冊

どうも。世界をまたにかける味噌ラーのミアです。

今日ご紹介するのは『発酵文化人類学』。今発酵界で話題の「発酵デザイナー」こと小倉ヒラクさんの著作です。

この本がおもしろいのはオリジナリティの強さ。数多くの参考文献を取り入れ信憑性を高く保ちつつ、著者独自のメガネでのぞいた発酵の世界の描写をユニークに表現されていることです。

『発酵文化人類学』

発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ
小倉ヒラク
木楽舎 (2017-04-28)
売り上げランキング: 1,087

 

この本を一言で表現すると「発酵微生物と人間の関わり方のエッセイ」です。

発酵微生物の働き方をまるで人間社会の行動に表してみたり、逆に人間の社会形成の様を発酵微生物の世界に置き換えてみたり。生物学の知識がないわたしでも読めるんです。

(ニホンコウジカビの説明で)
このニホンコウジカビ(麹菌)は「発酵界におけるタモリ」だ。タモさんは常に他のタレントと一緒にいることでその真価を発揮する。もちろんひとりでも芸達者ではあるが(四ヶ国語麻雀とか)、他の芸人やアイドル、アナウンサーたちの力を引き出す名司会として、芸能界に欠かせない存在になっている。……

ニホンコウジカビも同じだ(とかいうとタモさんに怒られそうだが)。単体でも優れた栄養分や風味を作り出すが、酵母や乳酸菌たちとコラボする時に、彼らの活躍する舞台を整える優れたプロデューサーになる。

ひゃーおもしろい。まるで人間のことを話しているようです。日頃から社会を微生物の視点で考えている著者だからこそできた写実です。

 

日中の発酵文化の違い

微生物が擬人化して表現されるからわかりやすい。微生物と人間の関わり方が実におもしろく描写されています。

(中国の麹と日本の糀がそれぞれ異なる方法で増えて行く様子を、日中のデザインにおけるマーケティングの違いと説明)
僕は素人でも「糀」をつくることができるワークショップを数年来開催している。素人がつくった「糀」は表面はモコモコしていても中を割ってみると根っこ(菌糸)が米粒の中心まで食い込んでいなかったりする。おそらくそんなに技術が発達していなかった古代日本でも同じようなものだったのだろう。対して中国の「麹」は、数センチの深さがある麦の塊の中心までびっしりと根っこが張っている。この「栄養の吸い上げ方の違い」が、日本と中国のカビ発酵文化に決定的な味の違いをもたらした。p.52

日中では麹の特徴がこんなに違うんですね。微生物にも国境があったり、なんて。

微生物の特徴が違えば人間の行動の特徴も変わってくるのか疑問に思いません?! もっと読みたくなりますよね。

さらに見ていきましょう。

 

微生物の違いが日中それぞれに住む人間の行動の違いをもたらした?!

それぞれ特徴の異なる日中の微生物に合わせて、中国と日本の先人たちが地道にマーケティングを行い環境を独自に最適化してきたというのです。

日本では中国のように何年・何十年と熟成させまくる発酵食品はまれで、だいたい1年、長くて3年以内に味わうものがほとんど(古酒と言っても20年寝かせることは稀だ)。そのかわり、フレッシュさ、素材の味の残る繊細さが際立つという特徴がある。
中国に行くと、文化大革命が始まる前から熟成させたお茶とか酒とかがゴロゴロしている。歴史の感覚と同じように、中国は100年巣板の長軸で物事を捉え、日本は目先何年のフレッシュなトレンドを追いかける。p.57

なんだか人間が微生物に支配されているようなSF的タッチで表現されます。

でもちょっと待ってください。

人間視点で見ると、最終的顧客は微生物ではなくわれらのはずで、微生物に最適な環境を与えるというのは所詮われわれのツールでしかないはずです。

それなのに微生物に最適な環境を与える過程で、知らず知らずのうちに人間自身の体内環境や味覚、思考が影響されてきてしまった

ひょっとしたら人間視点だけで物事をみること自体馬鹿げているのかもしれません。

 

ヒトと菌のおりなす和

この本はただの発酵についての本ではないのです。もっとデッカい話にまで及ぶのです。もちろん発酵とは何か? 的な発酵のいろはも可愛おもしろいイラスト付きで解説されるのですが、自分の存在意義のような哲学的話まで微生物的視点によって説明されます。

……ベイトソンは様々な生物が相互作用を及ぼしながら巨大なコミュニケーションの環=生態系を作っている過程する。その巨大な環の中で「私」という存在が発生する。

「私は、自分の知の営みが、生物界、生成の世界全体を織りなす広大な知の織物の一つの小さな織り目だということに降伏するばかりである。」

と書いています。生命体の中で自分がしっかり関与しているということなんです。

時に人間は菌を伝える媒体になります。

例えば、

(母乳と赤ちゃんの免疫システムの不思議な関係性を解き明かす研究で、)……ミルズさんと彼の研究チームは、母乳が赤ちゃんの栄養源となるだけでなく、赤ちゃんのお腹の中にいるビフィドバクテリウム・インファンティスという腸内細菌(いわゆるビフィズス菌の一種)を繁殖させる機能を持っていることを明らかにした。p.177

お母さん→菌→赤ちゃんというエネルギー流通を生み出す母乳は、赤ちゃんのお腹を健やかに発酵させるための最強のサプリメントだと言えるのだな。p.178

菌を伝達することでわれわれは生命を循環させているんですね。

生態系における微生物の役割が本の中では説明されるのですが、長くなりすぎるので割愛します。

それでも触れたい。おいしい表現を抜粋すると、

(著者お気に入り漫画「もやしもん」から)
「君の営み 我々の営み 別々のようでいて同じなんだヨ」
「それぞれの輪ではあるが この世界は全てつながっているんだ」
「みんなみんなで一つの和なんだヨ」p.154

ん〜ご自分で読まれたり!

 

風土を見極めた甲州ワインの進化

知りませんでしたよ。甲州ワインって進化してきたのですって。第1世代目はどぶろく的葡萄酒、第2世代目は世界基準のワイン、第3世代目は日本らしいワインです。その進化の仕方が深いです。

……余韻もひたすらに穏やかかつ爽やかで、甲府盆地を吹き抜けて行く初夏のそよ風のような味わいだ。決して強い飲みごたえがあるワインではない。

しかしこの穏やかさと軽快さこそ、甲州ワインのイノベーションだ。それは何か?
「和食にバッチリ合うワイン」というイノベーションであるよ。(p.230)

和食に合うワインというのは新しく、日本においては他に敵なしの強さです。

しかしここまでの道のりは決して簡単ではなかったらしく、

 つまりだ。最初からワイン醸造ように特化して進化してきたヨーロッパ型のブドウとくらべて「足りないもの」がたくさんあるんだね。p.225

したがって、

・ぶどうを収穫するタイミング
・糖分の不足をどう補うか
・どこまでキレイにブドウ汁の清澄をするか p.226

という点を工夫してきたそうなのです。

人間が知恵と工夫を凝らし自然界の微生物の力を最大限に生かす、そこにはおいしさという「美」が存在しますし、その「美」は日本食と合うという文脈の中でひときわ強い価値を生み出すのです。足りないことを補い強みに変換することもまた強い美しさを生み出す秘訣。

甲州ワインを飲まない手はないですな。

 

味覚の話

わたしは世界一周旅行をしてみそ汁をふるまい歩いた経験を持ちます。どうしてこんなに国やエリアによって味覚が異なるのか気になっているわけです。

「慣れ」、「気候風土」、「腸などの臓器のリアクション」、何がいわゆる良い食べ物かという「情報」が「おいしい!」を決定付ける要因だと個人的にみています。

特にこの「気候風土」や「腸などの臓器のリアクション」というのはまさに微生物の世界であり、微生物を中心に考えると人々の味覚形成の謎にすごく合点がいったんです。

ちなみに著者は味覚についてこう記しています。

……酒は地域や文化の特性と強く紐づいていて、さらに個人の経験の中でも「慣れ」も深く関与する。……p.266

ワインがあるからパンがおいしいし、日本酒があるから漬物がおいしい。

「気候風土」によって微生物が特徴付けられ、その特徴はそのまま食品の特徴になり、自分たちの味覚の「慣れ」となる。同時に、長きにわたり教え込まれてきた「○○は優れた食べ物」といった情報が味覚に影響を与える。

五感で物理的に「感じる」ことと、意識を使って「イメージすること」が自分の脳内でつながっている……p.268

それが味覚でありさらには、

本来は毒だったはずのエタノールを手なずけ、栄養にもならないものを楽しむという「遊び」をつくりだし、その遊びを儀式として社会制度のなかに埋め込んだ。遺伝情報を変えることなく、人間は自分自身の認知と行動パターンを変化させることができる。p.268

微生物の働きと味覚は影響し合っています。また人間は味覚で遊び、コミュニケーションを通して社会を形成するんだから人間と微生物のつながりは想像以上に濃いということです。

長くなってしまいました。

最後に、

著者小倉ヒラクさんの魅力

こんなおもしろい本を書かれる著者ってどんな方なの? という疑問にも同時に答えてくれるのがこの本です。わたしらの知りたい欲求をがっつりキャッチしてくれていて、冒頭に自己紹介がされています。発酵デザイナーという風変わりな肩書きの所以とか、発酵へ興味が行った所以とか。素敵です。

ブログも書かれていらっしゃいます。でも幅広くカバーされているのでやっぱり本は良いですね。


プロフィール

ミアタケ

2年4ヶ月に及び、みそ汁をふるまう世界一周旅行をする。味噌に感化され和の文化が好きに。帰国後30歳からミア流和式花嫁修業に精を出す。
さまよいがちにグローバル化する現代ニッポンの産物であり、博愛主義の愛国者と自分自身を分析する。

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